JOURNAL Special Contents

2021-01-31
古き良き街並みにマッチし、
利用しやすさを考慮した新庁舎へ

新庁舎建て替えプロジェクトに関わるさまざまな人の声を届けるスペシャルコンテンツ。今回は、設計を手がけた「株式会社 梓設計 関西支社」の難波壮一さんと中川洋輔さんに、設計に対する熱い想いを語っていただきました。その模様を前編・後編に分けてお届けします。前編では、新庁舎の設計において大切にしていたことやこだわりなど、本プロジェクトへの2人の想いが飛び交いました。

株式会社梓設計 関西支社 アーキテクト部門 設計部 主幹 難波 壮一(なんばそういち)

小学1年生より建築に興味をもち、小学5年生で建築家になろうと思う。1989年に梓設計に入社し、さまざまな公共施設の設計に従事。近年は10件以上の庁舎設計に携わっている。地域性と様々な人々の利便性を主眼とした計画の中にプラスアルファの新しいアイデアを取り入れ、楽しみながら建築に取り組んでいる。

株式会社梓設計 アーキテクト部門 BASE02 主任 中川 洋輔(なかがわようすけ)

2014年に梓設計に入社し、アリーナや図書館などの公共施設からホテルまでさまざまな設計に携わる。奈良県出身。今回、地元での設計にあたって大和郡山市の過去・現在・未来を考え、ここだけの庁舎の実現に向けて、人一倍強い思い入れで新庁舎建設プロジェクトに臨む。

歴史や特徴をしっかりと学び
大和郡山らしさを具現化する。

設計プランはどのように進めていきましたか?

難波―アイデアを考える前に、まずは街を知ることが大切です。庁舎周辺を見て回り、土地がどのような特徴を持っているのかをチェックしたり、大和郡山の歴史を調べるなど、どのような街なのか徹底的にリサーチしながら、大和郡山市の庁舎としてふさわしい建物のイメージをチームでブレーンストーミングしながら具現化していきました。

中川―私は大和郡山市が地元なので、このプロジェクトに携わることがわかったときはすごく嬉しかったです。高校を卒業して大和郡山を離れて以来、久しぶりに街をじっくり見てみると知らないことも多く、新たな発見もたくさんありました。それを設計にフィードバックできたと思っています。

難波―歴史を紐解くと郡山城の南東に位置し、お堀の中にある庁舎はもともと武家屋敷だったようです。私自身、これまでさまざまな建築の設計に携わってきましたが、そういった場所に建物をつくるのは初めての経験でした。大和郡山の歴史を映し、これまでとこれからをつなぐ庁舎をつくることで、市民の方に親しんでいただきたいと思っています。

街のシンボルを継承し
新しさをプラスする

街のシンボル的な建物の建て替えということですが、意識したことはありますか?

難波―現在の庁舎を設計したのは、日本武道館や京都タワーを設計した山田守さんという有名な建築家です。旧庁舎の窓や庇(ひさし)などの特徴的な雰囲気は当時、とてもモダンで珍しかったと聞いています。大和郡山のシンボルだった旧庁舎の歴史も大切にしながら、そのイメージを新しい建物に取り入れられないか検討しました。

中川―百寿橋を通る庁舎入り口までのアプローチは変わりませんから、その動線を意識しながら設計しました。

難波―私たちと大和郡山市が考える方向性やコンセプトがほぼ同じだったため、進行はとてもスムーズでした。細かい部分は四苦八苦している部分もありますが、話し合いを何度も重ね、メンバーで試行錯誤しながら進めています。

中川―そうですね。例えば、1、2階のルーバー部分に金魚のような形の金具がついたものを検討したり、なめらかなカーブを描く形の庇を採用するか考えたり…。細かいディテールもさまざまな案を検討しました。

「和」をイメージしたデザインと
利用する人のことを考えた設計

設計面でのこだわりは何ですか?

中川―全体のテーマに「和」のイメージを掲げ、外観デザインは大和郡山市の美しい街並みにマッチするものを考えました。白を貴重にしながら、郡山城やホールなど近隣の建物も意識しました。また、機能性の高い現代的な素材を使いながらも、古い街並みになじませることを重視しました。内装デザインにおいて意識したのは、“ひと目でどこに行けば良いのかが感覚的に分かる”ということ。庁舎に入って、人に聞かないとどこに行けばよいのかわからないのでは意味がありません。大きなサインで目的地に導いたり、市民の利用頻度の高い課は1、2階のわかりやすい場所に設けたりと、利用する人のことを考えた設計を心がけました。

難波―また、職員の方が働きやすいような環境づくりも工夫しました。執務スペースはなるべく柱の少ないような大スパンで作り、できるだけ間仕切りを使わずに周りが見渡せるように。職員同士のコミュニケーションが生まれ、フロアを行き来しやすいようプランニングしました。また、地震の揺れを吸収する免震構造を採用することで、書棚の倒れやファイルの落下を防いでいます。

中川―空間のつながりをもたせるために設けた吹き抜けは、代々郡山城主をつとめた柳沢家の家紋「郡山花菱」のひし形をモチーフに特徴のある形にしました。また、ひし形を2つつなげると大和郡山市の特産物である金魚の形になります。サインやタイル、ソファーにもその形を取り入れることで、随所に大和郡山らしさが感じられるデザインとしました。

前編では、設計面でのこだわりなど、新庁舎のデザインや機能性についてたくさん語っていただきました。後編では、新しい新庁舎のありかたや今後のビジョンなどをお伺いします!

設計時の検討スケッチ資料。金魚のモチーフが随所に見られる